サンティアゴストレート敗退から、ステージ1のMVPへ——ZmjjKKとEDward Gamingが「メタ適応」で取り戻したもの

Masters London 2026の幕が間もなく上がります。中国地域から出場するEDward Gaming(以下EDG)は、第1シードとしてこの舞台に立ちます。チームを牽引するのは、エースのZmjjKK。VCT 2026 China Stage 1でMVPに輝いた、いま中国で最も勢いのあるデュエリストです。
しかし、彼らがこの場所にたどりつくまでの数ヶ月は、決して順風満帆ではありませんでした。むしろ、シーズン序盤のEDGは、2024年に世界の頂点に立ったチームとは思えないほど低迷していました。本稿では、EDGとZmjjKKが如何にしてその風格を取り戻したかに焦点を当て、その背景を筆者の視点から解説・考察していきます。
EDGの栄光と低迷、そして復活を語るには、まずチームの歴史から振り返る必要があります。
EDGは、中国VALORANTシーンの黎明期から国際舞台に挑んできたチームです。VCT Chinaリーグが正式に発足する前の2022年、彼らは東アジア地域の予選を経てVALORANT Champions 2022への出場権を獲得し、中国勢として国際大会の場に立ちました。2023年にはMasters TokyoとChampions 2023でいずれもベスト6に入り、着実に存在感を高めていきます。
そして2024年、EDGは頂点に到達します。Masters Madrid、Masters Shanghaiこそ振るわなかったものの、シーズンの集大成であるVALORANT Champions 2024で、Paper Rex、Sentinels、Leviatánといった強豪を次々と退け、グランドファイナルでTeam Hereticsを破って優勝。中国地域として初の国際タイトルを掴み取りました。

その中心にいたのがZmjjKKです。彼はこの大会のMVPに選出され、決勝のBo5では当時の記録を塗り替える111キルを叩き出しました。
華々しいプレイと圧倒的な火力で多くのファンを魅了し、VCT China 2024リーグMVP、Duelist of the Year、そしてChampions 2024 MVPと、数々のアワードを獲得しました。さらに、VALO2ASIAが選出する2024年のAPAC最優秀選手にも選ばれています。

ZmjjKKはオペレーターの名手としても知られ、ジェットやチェンバーを操る撃ち合いの強さは、長くEDGの生命線であり続けてきました。
だからこそ、その後の低迷はより重く受け止められました。
2026年シーズン最初のMasters、『VALORANT Masters Santiago 2026』では、スイスステージの初戦、EDGはEMEAのGentle Matesに0-2で敗れます。続く敗者側の一戦では、Pacific第2シードのT1に再び0-2、この敗戦は、ZmjjKK本人の誕生日に喫したものでした。EDGは、この大会で最初に姿を消したチームの1つとなりました。

VALORANT Champions 2024を制した「中国最強」の看板は、このとき確実に色褪せていました。実際、中国地域でこの大会に勝ち残ったのは第1シードのAll Gamersのみ。EDGとXLG Esportsの早期敗退は、中国勢と他地域との間に開いた差を突きつける、苦い現実となりました。
では、かつての世界王者がここまで沈んだ理由は何だったのでしょうか。その答えの一端は、Autumn自身がサンティアゴ敗退後のインタビューで語っています。鍵となるのは「メタへの適応」です。
2025年のVALORANTは、アビリティやセットプレイを重視するスタイルが主流でした。しかし2026年に入り、メタは大きく転換します。撃ち合いとエイムそのものが重視され、試合のテンポは速くなり、各チームはヨル、ネオン、ウェイレイといったアグレッシブなデュエリストの組み合わせによる「ダブルデュエリスト」構成を採用するようになりました。
ところがEDGは、サンティアゴ時点でこのダブルデュエリスト構成をあまり使っていませんでした。Autumnによれば、理由は選手の習熟度にありました。
チーム内で話し合ったところ、一部の選手は、特にウェイレイに対して抵抗感を抱いていました。良い構成を練る時間があまりなく、キックオフで使用した構成の方が良いと考えました。
また、中国チームを率いる韓国人コーチならではの難しさも吐露しています。
試合中の戦略を変えたり、メタへの適応を支援したりすることはできますが、私の最大の強みである選手たちの感情をケアすることが、言語の問題で今はできなくなっています。
もっと中国語を勉強するべきなのですが、それには時間がかかります。
撃ち合い重視のメタは、本来であればエイマー型デュエリストであるZmjjKKにとって追い風のはずです。それにもかかわらず結果がでなかったのは、チーム全体としてのメタへの適応が追いついていなかったからでした。
※引用:https://esports.gg/news/valorant/edg-autumn-masters-santiago-2026-interview/
転機は、約2ヶ月後に訪れます。3月末から5月にかけて行われた『VCT 2026 China Stage 1』で、EDGは別のチームのように生まれ変わりました。
この大会でEDGは10試合に出場し、9勝1敗。喫した唯一の敗戦は、後に決勝でリベンジを果たすXLG相手のものでした。
ZmjjKKは27マップを戦い抜き、ACSとKPRの両部門で大会の全出場選手中1位を記録。
多くの試合でスコアボードの最上段に名を刻み、文句なしのMVPに選出されました。

ZmjjKKは、代名詞であるジェットやレイズに加え、サンティアゴで足かせとなっていたウェイレイを主要なデュエリストの一つとして使いこなしています。状況に応じてチェンバーも使い分け、得意のオペレーターで試合を支配する場面も健在です。低迷期最大の課題であった「使えなかった武器」を、わずか数ヶ月で自らの主力に組み込んでみせたのです。
決勝ではXLGと対戦し、3-2の激戦を制して優勝。EDGは中国地域第1シードとして、Masters Londonの出場権を勝ち取るだけでなく、プレイオフへの直行便に乗り込むことにも成功しました。

世界王者から転落し、国内ステージで完全復活を遂げたチーム、EDGの復活劇を追うと、EDGは「王者としての風格」が健在であることがわかります。しかし、その物語はまだ完結していません。
なぜなら、Stage 1の優勝もMVPもあくまで国内大会での評価だからです。サンティアゴで突きつけられたのは他地域トップとの差でした。その差を本当に埋められたのかどうかは、国際舞台でしか証明できません。ロンドンは、ZmjjKKとEDGの復活が本物なのかが問われる最初の舞台となります。
誕生日に大敗を喫した男は、いまMVPとして挑戦状を叩きつけます。撃ち合いのメタが続くこの舞台で、ZmjjKKのオペレーターとデュエリストの両刀が世界相手にどこまで通用するのか。Masters Londonにおける彼のパフォーマンスは、ドラマティックな復活劇のクライマックスとして、最も注目すべきポイントの一つと言えるでしょう。
『VALORANT Masters London 2026』は6月6日に開幕し、EDGの初戦はプレイオフ初日にあたる6月12日もしくは13日に行われる見込みです。
黒瀬
猫となかよく