IGLにもエイムが必要?──変化するIGLの役割

VALORANT、とりわけ競技シーンにおいて、IGLは試合展開の根幹を担う重要な役割です。高いスキルを持つ選手や、華々しいプレイが注目されがちですが、チームの「頭脳」であるIGLは、チームにとって絶対に欠かすことの出来ない存在です。

かつては、IGLがスコアボードの下位にいたとしても「仕事をしている」と評価されていました。
むしろ「IGLなのにスコアが伸びている」ことが注目を集めることさえありました。

しかし、現在ではIGLに要求される能力の基準は劇的に変化しています。最近のVCTでは、IGLがデュエリスト顔負けのエイムでマルチキルを取るシーンをよく目にします。

なぜ「頭脳」と「フィジカル」の両立という、人間離れしたタスクが標準化してしまったのでしょうか?

なぜ「撃てるIGL」が必要になったのか

最大の要因は、競技シーン全体のスキルレベルが極限まで高まっていることです。
戦術だけでエイム差を覆すのが難しくなり、どれだけ良い作戦を立てても、チーム全体の火力が不足すれば、撃ち合いで潰されてしまいます。

また、メタやエージェント構成の変化も無視できません。以前のようにIGLがコントローラーやイニシエーターで生き残るだけでなく、孤立してサイトを守り、一人で敵の隙を突く役割を担うことも増えました。その遂行には、必然的に「個の強さ」が求められます。

「IGL」の概念を変えた選手、苦戦する選手

競技シーンを長く見続けてきた、またはプレイしてきた人は、Munchkinのプレイに衝撃を受けたことでしょう。

彼はIGLとして完璧にゲームをコントロールしつつ、MVP級の活躍を見せ、「IGL」という概念そのものを変えました。
Masters優勝も経験した2024年シーズン、Munchkinは「世界最高峰のIGL」という評価を確立しました。

VCT Americas屈指のIGLであるValynは、チーム全体を動かしながらも、必要とあらば一人で戦局を変えてしまう破壊力を秘めています。
彼のウォームアップルーティンの動画は大きな注目を集め、日本でも翻訳版が話題になるなど、そのエイム力はリスペクトされています。

F0rsakenは、ほとんど全てのロールを高い水準でプレイできる上に、再編後のPaper RexではIGLを担当しており、負担が増した中でも以前と変わらない驚異的なパフォーマンスを出し続けています。
彼はチームにとっての理想を体現したプレイヤーであり、Paper Rexの強さの根幹を担っています。

Masters MadridでSentinelsを再び王者の座へと押し上げたjohnqtは、IGLながらもセンチネルやヴァイパーなどを使用し、単独でエリアを切り開く役割をこなしました。
Manchkinと同様「IGL=後ろで指示を出すもの」という常識を崩壊させたプレイヤーの一人です。

これらの選手が「指示をしながら敵の頭を吹き飛ばす」という離れ業をやってのける一方で、時代の急激な変化に苦悩するIGLが存在することも事実です。

FNSは、かつてMastersの優勝経験もあり「世界最高の頭脳を持つ選手」として高く評価されていました。しかし、引退直前に所属していたNRGでは、撃ち合いのインフレに圧倒され、彼の強みである戦術が機能不全に陥るケースも見られました。

Fnaticを長い間牽引し、多くのトロフィーをもたらしたBoasterもまた、変化の波の中にいます。
近年ではフィジカル強化に取り組み、撃ち合い主体の環境に適応しようとする姿勢が見られますが、ひとたび撃ち合いの調子が悪いとコミュニティから厳しい批判に晒されてしまいます。

DetonatioN FocusMeに所属し、日本代表としても戦ったArtは、かつてのチームメイトから評価されており、読みの鋭さを活かした戦略の構築を得意としています。
Artのような「4人の強力な駒を動かすチェスプレイヤー」というスタイルは近年廃れつつあります。
Artは頻繁にオーディンを活用することでも有名ですが、長年貫いていたスタイルを辞め、実際にヴァンダルの使用を中心にしていた時期もあり、フィジカルの強化に取り組む姿勢も見せています。
2026年はSCARZからVCJに出場することが決まっていますが、挑戦を続けるArtはどのような姿を見せてくれるでしょうか。

頭脳を使い続けなければならない上に、さらに高いエイム力まで要求される彼らの葛藤は、現代のIGLの宿命であるのかもしれません。

まとめ

本来、喋りながらゲームをするだけでエイムは鈍りますが、IGLはさらに「敵のULT状況の管理」「ミニマップの確認」「次ラウンドの策定」を脳内で並行処理しています。

現代のトップIGLは、脳内のリソースを思考に割いた状態でもフィジカルを維持できるよう、他の選手に小さな判断を委ねることで、エイムに集中するリソースを残すスタイルへと変化しているのではないでしょうか。

今や、チームはIGLという一人の指揮官に従うのではなく「全員が考え、全員が撃つ」という考え方が新たな常識となりつつあります。

間もなく各地域のVCTでKickoffが開催され、いよいよ2026年シーズンの幕が上がります。常に進化し続ける競技シーンで、今年はどのような「新時代のIGL」が台頭するのでしょうか。

注目のVCT 2026: Pacific Kickoffは1月22日に開幕し、同日の午後8時にはZETA DIVISION対FULL SENSEの試合が行われる予定です。

黒瀬

猫となかよく

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